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レビュー|傷に寄り添う恋『人間不信の捨てられ聖女は恋する心を見ないふり』:杜来リノ

ライトノベル

こんな人におすすめしたいTL小説

  • 恋に慎重になっている人
  • 癒しよりも“寄り添い”を求めている人
  • しっとり読めるTLが好きな人

あらすじ
楽器で奏でる旋律に乗せて魔法を発動する『響鳴奏士』。その中でも癒しの力に秀でるミュレは、銀音の聖女と呼ばれていた。

しかし、何者かに嵌められ、王太子に魅了魔法を使った罪で追放されてしまう。婚約者にも捨てられ、絶望したまま日々をすごす中、胡散臭い笑みを浮かべた軍人ナハトと知り合う。彼なら私を傷つけてくれるかもしれない。そう期待して一夜を共にしたのに、それ以来彼から執拗に求められるようになって――!? 

孤独な聖女とクセ者軍人の溺愛執着ラブファンタジー!
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感想
——恋を「見ないふり」してきた彼女が、本当に求めていたものとは。

TL小説を読むとき、私はどうしても “ヒロインの過去” に目が向いてしまいます。
華やかな恋の前には、たいてい彼女たちが抱えてきた小さな傷や、言葉にならなかった寂しさが横たわっていて、その影があるほど物語は深みを増す。
本作『人間不信の捨てられ聖女は恋する心を見ないふり』は、まさにその “影の部分” が丁寧に描かれた一冊でした。

ヒロインは聖女として役割を担っていたのに、国からは捨てられた存在。
「人間不信」という言葉は簡単だけれど、その裏にはどれほどの積み重なった失望があったのだろう、と読み進めるほど胸が締め付けられます。
彼女の中には、人に期待して裏切られるくらいなら最初から距離を置きたい、という諦めと自己防衛が同居していて、その感情の揺れ方がとてもリアル。

恋に落ちるというより、恋を「見ないふり」しようとする姿勢が本作の肝だと感じました。

彼女は相手に惹かれていく自分を自覚していながらも、その感情を大事に扱えない。
訓練で身につけたような冷静さではなく、「また傷つくのが怖い」という素直な恐れ。
この恐れがあまりにも人間らしくて、決して大げさではなく、誰しも胸に覚えがある感情だと思いました。

相手の男性側が彼女を追い詰めることなく、過度に慰めるわけでもなく、静かに寄り添ってくれるのも印象的です。
彼の言動は素直ではありませんが、“今の彼女のままで受け止める”という姿勢がしっかり描かれています。だからこそ、ヒロインの心がゆっくりほぐれていく過程に説得力がある。
いわゆる「優しいヒーロー」ではない、丁寧なキャラクター造形を感じました。

人に裏切られてきた彼女が、好きという気持ちを差し出すには、冷静さや理性とは別の、もう少し柔らかな勇気が必要になります。
その勇気が芽を出す瞬間が物語の中盤以降に丹念に描かれていて、特に彼女がふとしたことで心の扉をほんの少しだけ開く場面は、読者としても息をのむような繊細さがあります。

恋愛要素はもちろんTLらしい魅力があるのですが、それ以上に「心が回復していく物語」としての読み応えが強く、ただの甘い物語ではなく、“誰かを信用することの怖さ” を理解したうえで差し出される優しさに、しみじみと温かさを感じました。

大人の女性が読むTLとして、この “複雑さ” の描写は非常に心に響くと思います。

物語の終盤、彼女が少しずつ自分の気持ちに素直になっていく流れは、とても静かで丁寧。
後半の事件によって、ヒロインの危機に駆け付けた、ヒーローが駆け付けるところは胸が締め付けられる思いでした。
「恋する心を見ないふり」をしてきた彼女が、最後に選ぶ言葉や行動のひとつひとつに重みがあり、その静かな決意に胸が熱くなる。

痛みを知っているからこそ、甘さが沁みる。
そんな一冊でした。

「恋が怖い」「人間関係に疲れてしまった」という女性にこそ響く物語だと思います。
甘さが欲しい時よりも、むしろ気持ちが少し弱っているときに読むと、彼女の心の動きがより鮮明に伝わってくるはず。

“心の深いところをそっと撫でられるような物語” を求めている方におすすめしたい作品です。

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